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追憶編

304.追憶編

(背景)
 中3のある朝のできごと。日記のタイトルは「VS俺」だった。自分自身との戦いを意味したタイトルなのだろう。

今日は前々から予定していた挨拶運動を遂に実行してきた。

皆知っての通り俺は、人並みより口数が少ないし、挨拶も会釈だけのあまり人と関わりたく無い野郎だ。

「でも、そんな俺だからこそ周りの餓鬼に挨拶を教えてやらなきゃ!」

と、思いつつ実行にうつせなかった。

しかし今回、ある事件で知り合った「ちゅう先生」に背中を押してもらい実行にうつしたのである。

朝の出来事である。

「ふぁ~。さて、学校いってくっか。。」

俺はいつものようにチャリにまたっがって坂を登りはじめた。

「今日は挨拶運動!教師への一歩や!」

と、気合いの一発をいれて最初の横断歩道。

今日は、車がこんでいた。ここは、何といっても車が止まってくれない。。。わたれない

俺は、いつもみたいに車がいなくなるのを待つ。

すると、後ろからベビーを後ろにのせたパパさん登場。

このパパさんいつもどこか強引である。

今日も強引に渡ろうと、車道にチャリの一部をだしている。

もちろん、普通の小さい道なので普通の車は止まってくれるがここの奴等は違う。

反対側の車とぶつかるスレスレを余裕にとばしてパパさんをよけやがる。

「よけんなよっ!!」

蚊の鳴くような声で俺がつっこむ。

次の瞬間、パパさん車がまだ来ているのにもかかわらず前進!

車とスレスレでパパさん何とかわたる。

「赤ん坊いるんだから、もっと自重しろよ。。」

俺はその後、横断歩道をわたるのに、三分かかった。

そして、いよいよ小学校の餓鬼どもが通学している道にさしかかった。

「うしっ!!」

天誅する時よりもドキドキしながら、声をかけようとした。

しかし、餓鬼は後ろを向いている。正面から声をかけるのと、後ろから声をかけるのとでは、違いすぎた。。。

「あっ、ああ、あ~ぁぁぁぁぁぁxxxxx、、、、、」

声がかけられなかった。俺は餓鬼に負けた。

遅刻ギリギリのため、他にターゲットがいなかった。

途方に暮れながら、小学校を通り過ぎた。

だが、まだ終ったわけでわない。

小学校を通り過ぎたので今度はまん前からだ。気を取り直して、声をかけてみた。

「おはよう。」

「・・はよぅ・・・ます。」

なんとも、小さい挨拶である。

しかし、俺は相手の表情をみのがさなっかった。

明らかに、ビビってる。

いくら、制服着てるからといって、やっぱり不審者だ。

びびるのも仕方ない。

その後2,3人に声をかけたがどれも同じようなものだった。

最後の2人の餓鬼を見つけた。

一人はちっとは、かかわりがあるが多分向こうは俺の事を覚えてないだろう、悪餓鬼だ。頭は、金髪にそめてやがる。昔から。

「おはよう」

さりげなく、声をかけてみた。

「おはようございますっ!!」

さすが、悪餓鬼!!元気の良い返事が返ってきた!!

今日の俺の挨拶運動は、この二人の悪餓鬼のおかげで大成功だった。

さて、明日は後ろからも挨拶するか!

(回顧録)
 これは、いわゆる黒歴史とかいうやつになるのだろうか。今の私はかなり恥ずかしいと思っている。別に挨拶は恥ずかしいことではないんだがな。チャリに乗った中学生が見知らぬ小学生に「おはよう」って言っている様が、どうにも。。。「教師という仕事は、恥とかそういうものは全部捨てて、人としての見本が見せれんといかん」「今恥を捨てれん奴が、後に捨てれる訳ないだろ」そんなことを考えていた気がする。
 自分というものを本当に見つめ直していた時期だったのだろう。いつも周りには強がっていたが、本当は「勇気や自信がない自分」を自覚していた。そんな自分を変えたくて一生懸命だったんだろう。思い返してみるとやっぱり恥ずかしく思うが、でも後悔はしていない。あの時、「変かもしれない」と思いながらも、勇気を出して挑戦した自分が、今確かに自分の勇気の一部を作ったなと思うからだ。
 「ちゅう先生」という人が誰なのかも覚えていないし、どんなことを相談したのかも覚えていない。でも、「やりたいことなら、やってみるといい」というような内容の回答をもらったんだろう。今の俺が同じように中学生から相談されたら、「やりたいなら、やってみれば?」とやっぱり返すだろうな。バカでも、バカなりにバカやってみれば、大事な何かを見つける時があるんだよ。そういうの、俺はなんだか好きだな。